脳と「こころ」の理解、精神神経疾患の新薬開発研究に新手法 モデル動物解析の自動化で高精度・高効率の研究を実現

脳とこころの問題の解決に必要な技術とは

 大学院時代、遠藤さんは遺伝的要因や環境要因によって脳の発達異常が起こるプロセスに関心をもち、動物実験によってその症状や原因を評価する研究を行っていました。その中で痛感したのは、「病気の解明や新薬開発を推し進めるには、効率的で正確で、汎用性の高い動物実験手法が必要だ」ということでした。そこで2016年に柏の葉スマートシティ内の「東大柏ベンチャープラザ」にフェノバンス・リサーチ・アンド・テクノロジー合同会社を設立。専門性を生かし、脳と「こころ」の理解、特に精神医学分野における新薬開発研究に有効な動物モデル評価法の確立と、そこから得られるデータの分析技術の開発に乗り出したのです。

 東大柏ベンチャープラザは、起業を大いにサポートしてくれました。

「動物に関わる事業なので、起業できる場所はどうしても限られてしまいます。東大柏ベンチャープラザはライフサイエンス事業に対応できる安全管理体制が整っていて、法令やガイドラインの遵守についても問題ないよう、事業の立ち上げをサポートしてくれました。ずっと大学にいて、ビジネスの世界を全く知らなかった私には、とてもありがたかったです」

同社研究施設

マウスの行動と体内の状態をリンクさせ、情報を抽出

 フェノバンス・リサーチ・アンド・テクノロジーの主な事業の1つが「IntelliCage(インテリケージ)」という装置を使ってマウスのデータを収集し、大量のデータを解析するサービスです。

1台のIntelliCageにつき16匹のマウスの飼育・実験が可能。個々のマウスはRFIDで識別し、コンピュータ制御により数多くの認知・学習試験を行える。これまで手作業で数カ月かかっていた実験が、この全自動装置によって1週間で完了することもある

 IntelliCageは、遠藤さんが10年以上にわたって共同研究を行ってきたスイスの研究グループが開発した実験装置で、既に世界中で利用されています。この装置の最大の特徴は、人の手を介さずに、全自動で多数のマウスの行動解析が行えることです。既存の方法では、人間が近づいたり触れたりするたびにマウスはストレス反応を示すため、データにノイズが生じます。しかし、IntelliCageを使うと24時間365日、マウスの自然な行動を全自動でモニタリングできるため、わずかな行動変化まで確実に捉えることができます。

フェノバンス・リサーチ・アンド・テクノロジー合同会社ではIntelliCageを使った実験プログラムを多数開発し、「行動試験ライブラリ」に蓄積している

 遠藤さんたちはIntelliCageの販売やリース、ユーザーサポートなどを行うとともに、日本チャールス・リバー社を窓口としたコンサルティング・受託試験サービスを展開しています。IntelliCageを使うことで、これまでマウスでは困難とされてきた幅広い認知機能の解析が可能となり、異常行動の検出や、化合物の薬効・安全性評価などを短時間かつラージスケールで行うことが可能に。このサービスは既に多くの製薬会社や食品メーカーなどに採用されています。