脳と「こころ」の理解、精神神経疾患の新薬開発研究に新手法 モデル動物解析の自動化で高精度・高効率の研究を実現

マウスの負担軽減につながる実験手法を開発

 フェノバンス・リサーチ・アンド・テクノロジーは現在、マウスの「バイオテレメトリ技術」に関する新技術開発を進めています。バイオテレメトリ技術とは、動物の体内に心拍数や体温、血圧などを測るためのセンサを埋め込み、その情報を無線送信して記録することです。この技術を使うと、マウスの生体情報を24時間365日モニターできるため、病態の特徴をつかんだり、薬の効果を確認したりするのに役立ちます。

「従来のバイオテレメトリ技術には、3つの問題があります。1つはセンサデバイスが大きくて動物の負担になること。2つ目はバッテリーに寿命があり、長期にわたる観察ができないこと。3つ目はデバイス1個が30万〜40万円と、非常に高価であることです。この3つの問題をクリアするため、私たちはバッテリーレスのデバイスを開発しています」

遠藤さんたちが開発中の生体センサの試作品。バッテリーレスのため非常に薄く、軽量。体外から無線給電するため、バッテリー切れもなく長期間の実験が可能に。このセンサが普及すれば、価格の問題も解決する

「最新の技術によって動物実験を効率化・高精度化できれば、動物1匹から得られる情報の量と質は飛躍的に高まります。例えば、これまで1つの研究に100匹必要だった動物数を10匹ほどに減らせるかもしれません。動物から得られる貴重なデータを活用することで、結果的に不要な動物実験の削減に貢献したいと考えています」

遠藤さんたちのセンサが製品化・標準化されれば、1匹のマウスから得られる情報の量と質は飛躍的に向上すると期待される

柏の葉発のベンチャーとのコラボ

 マウス用センサデバイスの開発には、東大柏ベンチャープラザで肩を並べるインテリジェント・サーフェス株式会社など、柏の葉エリアの複数の企業が関わっています。

「このようにコラボできるのも、東大柏ベンチャープラザの魅力の一つです。インキュベーションマネージャーの方々は柏の葉エリアを中心とした企業や大学の研究内容や技術に詳しく、人脈も豊富で、『このプロダクトには、あの会社や大学の技術が役立ちそう』などと、連携をサポートしてくれます」

 周囲にベンチャー企業が多いことも、遠藤さんの励みになっています。

「ベンチャー企業のビジネスは、何より孤独との戦いだと思います。事業や研究が思い通りに進まないと、責任の重さから大きな絶望感に駆られることがあります。ここにいる企業の皆さんは、そんな怖さや苦しみを知っているから互いに手を差し伸べ、助け合おうとしてくれます。イノベーションを生み出すためには、そういった人々や企業が集まる土壌が欠かせないと私は思います」

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