バイオ×ITで、バイオセンサー「アプタマー」を開発。誰もが手軽に今の自分を知る未来をつくる

 2017年、海外で牛乳に樹脂の一種であるメラミンを混入させた食品偽装が発覚。タンパク質含有量をかさ増しするためでしたが、乳児に健康被害が発生、国際的に対策が求められる事件となりました。樹脂はもともと食品への添加を想定していない上に、メラミンは低分子化合物であるため従来の食品検査では検出が困難とされていました。しかし、アプタマーをバイオセンサーとして用いることで、簡易でかつ迅速に検出できる画期的な手法が開発されました。

 このようにアプタマーを用いれば、食品や配水等の安全を簡便に検査できるセンサーを作り出すことも可能です。

アプタマーセンサーが特定物質を検出するイメージ。アプタマーは4種類の塩基からできており、その並び方(配列)で立体構造が変わるため、検査対象物にだけ強く結合します。この配列を探し出す技術(SELEX法)を用い、結合する特徴と遺伝配列が特定されたものがアプタマーです

ITとバイオ研究の融合により、
新たな価値の創出を狙う

ラボのスタッフは、それぞれに強みの専門分野や技術を持つ個性派集団。その掛け合わせが研究活性化の相乗効果を与えています

 NECソリューションイノベータの持つ、アプタマーの特許数は世界トップクラスです。それは同社のIT事業で培ってきた技術に加え、ラボに「実験」「IT」など得意分野を持つスタッフが集まり、その相乗効果を発揮したから。バイオとITが融合した同社ならではのノウハウが強みとなっています。

「アプタマーの作製は、検出対象の物質と結合する塩基の配列を絞り込むところから始まります。イメージで説明すると『DNAの塊』に対象の物質を反応させて、この「結合する塩基配列」を選び増やしていきます。しかし、もとの『塊』の中の遺伝子は10の13乗個という膨大な数です。これは例えるなら『1平方mの広さ×10mの深さ』に詰め込んだ砂粒から、必要とする粒を見つけるような作業です。しかも、結合するものがあることは分かっても、どのような塩基配列なのかを知るには塩基配列の解析が必要です。そこに弊社のITを使うことで、効率的かつ正確にアプタマーの候補となる塩基配列を絞り込むことができます」(藤田さん)

 そうした技術とノウハウを生かし、他にはないアプタマー開発にも成功しています。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の助成を受けた群馬大学との共同研究では、従来のアプタマーを探し出す標準技術(SELEX法)では難しかった「唾液の中のバイオマーカーと結合するアプタマー」の作製に成功。また、ITを用いることで塩基配列の構造の予測を行い、より安定する構造に最適化、精度の高いバイオセンサーとしてのアプタマーを生み出すことができたのです。