バイオ×ITで、バイオセンサー「アプタマー」を開発。誰もが手軽に今の自分を知る未来をつくる

 しかし、アプタマーをバイオセンサーとして社会に実装していくのは、これからが本番です。それには、他社との積極的なコラボレーションが必要だと、藤田さんは考えます。

「私たちには、アプタマーを作製する技術とノウハウはありますが、それを社会の現場で使ってもらうためには、もう一段階の開発が必要です。例えばチップやデバイスなどの分析ツールの技術を持つ企業との協働もこれから進めていきたいと思っています」(藤田さん)

次世代シークエンサーで遺伝子解析を行う藤田さん

自然を感じ、社会の声が聞こえる場所は自由な発想を生み出す

 藤田さんは、前職の大学病院で免疫や感染症関連の研究をしてきました。そうした基礎研究の大切さを知った上で、より社会の身近な場で役立つ研究に取り組みたいと考え、現在の道を選んだそうです。

「本当のスタートは、子どもの頃に飼っていた金魚が病気になったことです。ペットショップで買った薬も効果がなく、魚の病気を予防したくて水産学部で学びました。魚は自分の不調を訴えることはできませんが、人は、不調を感じれば行動できます。でも、大学病院では、我慢したり、逆に不安になったりして、ギリギリまで病院に行けない人もたくさん見てきました。もっと手軽に自分の体調を確認し、健康管理を意識できるものを生み出したい。今、社会的関心が高まっているヘルスケアの分野に、アプタマーの技術が貢献できないかを模索中です」(藤田さん)

 日頃の研究は、遺伝子や塩基の配列と向き合うものですが、その視線は常に課題を抱える社会の現場を見つめるよう常に心掛けているそうです。東大柏ベンチャープラザは、その視野を拡大させてくれる場でもあると言います。自治体や官庁のバックアップによるビジネスマッチングや、施設からのヒアリングも毎年行われ、入居企業同士の協働の声掛けもしてくれるそうです。

「この施設では専門外の分野で知りたいことがあれば、他の部屋をノックして相談することも可能です。他の企業のアポを取って、ビルに入って、というのよりかなりハードルが低い。外に出れば自然が豊かでリフレッシュでき、街には、私たちの技術を将来届けたい人々の暮らしが身近にあります。そうした日常は、研究開発に欠かせない、クリエイティブで自由な発想を与えてくれます」(藤田さん)

 2017年、ラボでは、千葉大学と奈良先端科学技術大学院大学との共同研究を行い、蛍光タンパク遺伝子の配列を変えることで「光るペチュニア」の開発に成功しました。この研究は、蛍光タンパク遺伝子を導入した光る花の開発にとどまらず、同社のITも応用したIoTと組み合わせた花を光源とした照明デザイン設計の研究へと広がりました。バイオ×ITの発想は、社の内外で新たな成果を生み続けています。

 常に外へ、人々の暮らしの現場へと眼差しを持てる場だからこそ、日々の地道な研究にも、藤田さんは確かな手応えを感じています。

1 2 3

前へ