第二の創業期を迎え、最先端技術分野と環境分野に注力

体制を充実し、第二の創業期へ

 ASMは今年4月に社名をアドバンスト・ソフトマテリアルズから現社名に変更し、同時に本店を東葛テクノプラザから柏の葉の東京大学柏IIキャンパス産学官民連携棟に移転しました。協立化学産業で長年研究開発に従事したのち、2018年に旧アドバンスト・ソフトマテリアルズに移り、取締役に就任した壷内幹彦さんが昨年代表取締役に就任し、東京大学エッジキャピタルのベンチャーパートナーとして旧アドバンスト・ソフトマテリアルズに昨年10月に加わった澤田さんが同12月に取締役に就任。2014年から国家プロジェクトImPACTのプログラム・マネージャーを務めていた伊藤教授も、昨年取締役として復帰するなど、体制も充実して第二の創業期を迎えています。

 COOの澤田さんは、「2005年に会社を設立してから15年たちましたが、必ずしも順風満帆というわけではありませんでした。体制も立て直し、世界に発信してゆく会社にしようということで、社名も変更しました」と打ち明けてくれました。実際、今までの顧客はほぼ国内に限られていましたが、澤田さんが加わってから海外の企業にも積極的にアプローチを始め、確かな手応えを得ているそうです。

 柏の葉の東京大学柏IIキャンパスに本拠を移したのは、「まず伊藤先生が身近にいらっしゃって、一緒に研究できる」というのが1番の理由、と澤田さんは説明します。柏の葉という場所は20〜30分で秋葉原まで出られるので、東京の顧客を訪問する営業活動に便利であること、国立がん研究センター東病院や東大などの研究機関があること、研究の一大拠点である、つくばへのアクセスが容易であることもメリットだそうです。

 さらに、「事業的には直接取引するような関係にはありませんが、柏の葉の開発を手掛けている三井不動産の顧客でわれわれの材を使ってもらえる企業が少なからずあり、そういう会社の紹介にご尽力いただいています。柏の葉という街を盛り上げるという意味で支援を行ってくださることは、われわれのようにまだ知名度の低い会社にとってはとてもありがたいことです」、と付け加えてくれました。

循環型社会にも貢献

 澤田さんは、今後は海外のビジネスを大きく進めたい、と考えています。ただ、SeRMの量産化はできているものの、決して安い製品ではないので、国内外を問わず、コストではなく機能を評価し、採用してくれる取引先を開拓することが目標です。現在、通信、半導体、IT分野で求められる高い機能性を求める企業に営業をかけています。通信や情報のデータのやり取りが高速・大容量化しているため、CPUやLSI から発生する熱をどう逃がすかが大きな課題となっています。SeRMを添加したエラストマーを用いた放熱シートは、厚み方向で銅やアルミの2倍以上の熱伝導率があり、ヒートシンクや放熱体に接合させることで、効率よく熱を外に逃がすことができます。

 さらに今後、力を入れていくのは、環境分野です。生分解性プラスチックの原料として使われるポリ乳酸は、生分解性は優れていますが、力学的な性能が不足していて衝撃に弱いのが課題です。ゴムやエラストマーを混ぜることにより耐衝撃性は向上できますが、硬さが低下するため、用途が限られていました。SeRMを添加することで、硬さを維持しながら耐衝撃性を大幅に高めることができ、新しく開発したポリ乳酸は、自動車部品、電子部材、生体材料分野への応用が期待されています。

 澤田さんは大学卒業後、東レ、ボストンコンサルティング グループを経てASMに活躍の場を見いだしました。大企業も経験した澤田さんは、スタートアップ企業に身を置き、外からうねりを作ることによって、日本の強みである化学産業に活力を与えたいと考えています。

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