カイコ創薬で新薬発見に成功!これまでにない薬や食品の開発を目指して

 関水さんは次に、カイコにADMEの過程があることを確認しました。ADMEとは、毒物や抗生物質などの化合物が体内で吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)される一連の流れ(体内動態)のことです。カイコはヒトやマウスと共通のADMEを持っていることから、薬品や毒物の実験に利用できることが分かりました。

カイコとヒトは消化管の構造が共通している。このことも食品や医薬品、毒物試験を行う上では重要なポイント

カイコを実験動物とする2つのメリット

 カイコを利用することで、動物実験における「動物倫理」と「コスト」という2つの大きな問題をクリアできると、ゲノム創薬研究所の外山繁勝さんは言います。

ゲノム創薬研究所 常務取締役 外山繁勝さん。関水さんとは高校時代の同級生で、2016年から同社の経営に携わる

「近年、動物愛護の観点から動物実験を行うことが難しくなっています。特に化粧品業界や食品業界では、新製品の開発に影響するほどです。その点、カイコは長年にわたり養蚕に使われてきたため、産業用昆虫としての利用が社会的に認められています。

 コストについては、卵1個当たり数円程度、幼虫にするまでのコストは、エサ代や人件費などを含めて1頭当たり約30円程度です。カイコは小さなケージで大量に飼育できますし、動きが鈍く、逃げ出さないため特別な設備が不要なので、設備投資も抑えられます」

カイコから日本医薬界の快挙が

 関水さんのさらなる研究により、カイコとヒトは体重当たりの毒物の致死量(LD50)と、抗生物質の有効量(ED50)が一致することも分かりました。つまり、カイコとヒトの体重差を考えれば、カイコに作用する量を10万倍すればヒトに作用する量を推定できるのです。この知見を利用し、ゲノム創薬研究所は抗真菌薬「ASP2397」と抗MRSA薬(抗生物質)「ライソシンE」を発見しました。