10年先の医療のために。遺伝子解析の精度と手法を磨き上げる学術ネットワークのハブ的研究拠点

 では、遺伝子解析とは、具体的に私たちの生活にどう役立っているのでしょうか。一番身近な例は、がん治療の診療方針の判断材料とするもので「がんの最適化医療」と呼ばれています。かつては国家プロジェクトであったゲノムの遺伝子解析は、解析機器の発達により、この10年で急激なコストダウンが実現しました。日本では2019年6月からがん遺伝子の検査が保険適用になっています。

「がん治療に用いられる抗がん剤の一部は、細胞をがん化する特定の遺伝子変異を持つ場合にのみ効果を発揮します。同じがんでも、その遺伝子変異を持たない患者さんに投与しても効果はなく、場合によっては副作用でより重篤化してしまう危険性もあります。そのため、現在ではがん腫瘍を切り取り、遺伝子検査をすることが義務付けられたのです。さらに抗がん剤の効果が期待できなくなる遺伝子変異を見つけて、治療の継続をやめる判断も遺伝子解析の結果を参考にしています」と鈴木教授は話します。

 こうした医療の現場に遺伝子検査の手法が「実装」されるまでには、世界中の研究や知見の集約があり、10年規模の歳月を必要とします。鈴木研究室では、全国からの依頼に応え、週に100人以上の遺伝子解析を行いながら、新たな手法、より精度の高い解析方法を模索しています。

世界のゲノム解析の研究レースは新たなスタートを切ったばかり

鈴木研究室。全国から依頼される遺伝子解析を週に100件以上行っている。そうしたデータに基づき、遺伝子解析の精度を高める新たな手法の研究、応用のための技術の模索が続けられている

 ヒトゲノムは30億個の塩基対からなる長大なものですが、2003年に解読が終了。現在では個人のゲノムが解読される時代を迎えています。しかし、それが人を構成する50兆個の細胞でどのように機能しているかは、まだ解明されていません。

「人の50兆個全ての細胞をゲノム解析してもそれは設計図にすぎません。それらが組み合わさり疾患の原因となっているかの解明は、これからのミッションです。実は、遺伝子解析研究の分野では、日本は世界に遅れをとっていました。しかし、この次世代ゲノム医療においては、これまでとは全く異なる発想の基礎医学研究が求められるパラダイムシフトが起きています。つまり、世界同時スタートの幕が切って落とされたばかりなのです」と鈴木教授は教えてくれました。

 この研究レースには、遺伝子解析のニーズの多様化も影響し、3つの分野が注目されています。