高精度の抗体作製技術を活用して「不可能」とされた領域を切り拓く 目標は世界レベルの製薬企業

「OMRは、がんの抗体医薬を開発している会社です。がんは通常、1種類のがんでも複数の標的をもっているので、その抗体を正確に作製するには非常に高度な技術が必要なのです。しかし新型コロナウイルスの場合、標的は『スパイク』と『ACE2受容体』の2つに絞り込まれています。たった2つの抗原に対する抗体医薬を開発するのは、私たちの技術があれば難しいことではないと考えました」

新型コロナウイルスの表面には、とげのようなスパイクタンパク(Sタンパク)が突き出している。これがヒトの細胞膜にあるACE2受容体(膜タンパク質)にくっつくとウイルス感染が成立する。スパイクタンパクとACE2受容体のそれぞれに結合する抗体があれば、スパイクタンパクがACE2受容体にくっつけなくなるため、新型コロナウイルスはヒトに感染できない

「新型コロナウイルス感染症の特効薬開発には、多くの製薬会社がチャレンジしていますが、そのほとんどはスパイクタンパクだけをターゲットにしています。ACE2受容体の抗体作製も同時に行っているのはおそらくOMRだけでしょう。その理由は、『LIMAXYSTM』がなければACE2受容体に結合する抗体が作れないからです」

複雑な膜タンパク質を標的にできることが最大の技術的アドバンテージ

 抗体医薬のターゲットとなるのは、細胞膜に埋もれている「膜タンパク質」です。膜タンパク質の構造は、細胞膜を貫通しているもの、細胞膜表面にくっついているもの、本体は細胞膜にくっつき、一部が細胞内外に飛び出しているものなど多種多様です。

 ACE2受容体も膜タンパク質の一種。しかも「複数回膜貫通型」といって、非常に複雑な形をした膜タンパク質です。複雑であるが故に、それに結合する抗体を作製するには高度な技術が必要です。

前出の図ではACE2受容体は単純化して矢印のような形で示されていたが、実際はこのようにグニャグニャと折れ曲がった複雑な構造をしている。スパイクタンパクは変異する可能性があるが、ACE2受容体はヒトの細胞に組み込まれているため構造が変化しない。そのため、ACE2受容体を標的にした優秀な抗体ができれば有効な医薬となる