高精度の抗体作製技術を活用して「不可能」とされた領域を切り拓く 目標は世界レベルの製薬企業

「複数回膜貫通型の膜タンパク質に対する抗体作製を可能にする技術が『LIMAXYSTM』です。これまでの技術では、複雑な形の膜タンパク質を細胞膜から抽出して抗体を作っていました。しかしその方法では膜タンパク質の構造が崩壊してしまうため、高精度の抗体を作るのは不可能とされてきました。そこでOMRは、あらゆる膜タンパク質を抗体医薬のターゲットにするために『LIMAXYSTM』を開発したのです」

 OMRは「LIMAXYSTM」を利用し、既に新型インフルエンザウイルスに対する2種類の抗体を完成させています。この抗体を使用した抗体医薬が完成し、実用化されれば、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに終止符を打てると村上さんは考えています。

抗体医薬の標的を約20種類から約5600種類に拡大

 現在、がん治療用などの抗体医薬の標的となっている膜タンパク質は約20種類。ほとんどの製薬会社はごく限られた標的に集中して医薬品開発を行っているのが現状です。その理由は、膜タンパク質には複雑な構造をもつものが多く、標的にするのが困難だったため。しかし、2016年にOMRが「LIMAXYSTM」を開発したことで、理論上は全ての膜タンパク質約5600の構造が明らかになり、それに対する抗体作製が可能となりました。

「LIMAXYSTM」法により、標的にできる膜タンパク質の種類は飛躍的に増えた

 OMR自身も「LIMAXYSTM」を利用して、6種類の抗体医薬の開発に着手。そのうち3種類はまもなく製薬会社に導出する段階まで進んでいます。

「現在のがん治療では、1つのがんに対して1種類の抗体医薬しか投与されません。しかし、がんの場合、1つの細胞に複数の標的膜タンパク質が発現することはよくあります。がんが転移すれば標的も変化しますし、がん組織の中央と周辺では標的が異なることもあります。つまり、患者さんそれぞれのがんに応じて、複数の抗体医薬を組み合わせて使わなければ、がんを治すのは難しいのです。私たちは、そんな“オーダーメイド”のがん治療ができる未来を目指し、この事業を始めました」