自治体のデータヘルスの課題をサポートし、日本のどこに住んでも健康でいられる社会にしたい

 地域の健康課題の解決は、本来は自治体の職員が取り組むべきだと久野さんは考えていました。そのために、人材育成にも力を入れてきました。しかし、行政改革の旗の下、ここ10年ほどで地方自治体の職員数の削減が進みました。一人当たりの仕事量は増え、研修を受けるにも時間が取りにくいという実態があります。そこで、自治体職員の意思決定のサポートをするために、開発したのがSWC-AIでした。

 現在は7自治体がAWC-AIを使っていますが、参加自治体が増えれば増えるほどデータが蓄積し、AIの学習が進んで機能の精度が上がります。久野さんは、まずなるべくたくさんの自治体に使ってもらい、AIの学習が進むことを期待しています。

健幸政策SWC-AI®︎は、現状分析、原因把握、将来予測、適切な施策提案、施策評価までをAIが行い、自治体が抱えるデータヘルスの課題解決をサポートするシステムです

健康格差拡大を憂慮

 TWRは健康増進のプログラム作りからスタートし、今ではまちづくりのコンサルティングまで仕事の幅が大きく広がっています。これまで100以上の地方自治体とさまざまなプロジェクトをやってきた経験から、久野さんは大都市集中による地方の疲弊が進み、地域による健康格差が広がっていることを実感し、憂慮しています。

 健康に一番効く要因は2つあり、学歴と収入だと久野さんは説明してくれます。学歴が高い人は健康に関する知識があり、健康に配慮します。そして、健康を維持するために、少し高くても安全・安心な食品を食べたり、ジムに通ったり、定期的に検診を受けたりするには、それを可能にする収入が必要です。そのため、地方と大都市の健康格差をなくすためには、学歴や収入の格差をなくし、健康へのリテラシーを高めるための、マクロの政策が必要だと久野さんは考えています。

 今回のコロナウイルスのパンデミック状況下では、人を分断するような場面も多く見られます。これもやはり、行政やマスコミも含めてコロナウイルスに対するリテラシーレベルが低いからだと、久野さんは指摘します。もう一つ、久野さんがこのコロナ状況下で心配しているのが、認知機能が低下する高齢者の割合が増えていることです。

「5月に見附市で調査したときには高齢者の認知機能の低下が10%だったのですが、7月末に関西のある場所で調査したところ、28%でした。ウイズコロナの状況があと半年か1年続くと、認知症を発症する人が増えるのではないかと懸念しています。認知機能の低下で留まっていれば良いのですが、認知症を発症してしまうと治りません」

 家に閉じこもった生活を続けていると会話が減る、会話が減ると鬱になる。鬱になると社会性が低下して、ますます外に出なくなるという悪循環に陥ります。久野さんによれば、コロナに関係なく、家に閉じこもって社会との関わりが減ると、すぐに認知症から要介護状態に移行するということが、今までのデータから明らかだそうです。ここでもやはり、社会生活と感染予防のバランスをとるための、ヘルスリテラシーの向上が重要だと久野さんは指摘します。

 久野さんは認知機能低下を防ぐため、認知症研究で著名な千葉大学予防医学センター教授の近藤克則さんと認知症予防に関する研究プロジェクトをスタートしました。また、柏の葉にある産業技術総合研究所 柏センターと、AI関連のプロジェクトにも着手しているそうです。

 TWRは2014年にオフィスを柏の葉に移転しました。その理由を久野さんは交通の便、自然に恵まれた環境だと教えてくれます。

「柏の葉はつくばエクスプレス沿線で東京にも出やすく、筑波大学にも通いやすい場所にあります。それから、私たちはクリエーティブな仕事をしているので、発想が煮詰まったら森の中を歩いたりできる環境が必要です。今のオフィスは駅からも近く、自然があり、インキュベーション機能も用意されているので、気に入っています」

 TWRは全国区で活動しているため、「柏の葉にオフィスを置いているからこの地域の研究機関や企業と組む、という発想はない」と久野さんは断言します。しかし、プロジェクトベースで一緒に組むことになれば、自然にこの地域での交流も深まっていくだろうと期待しています。

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