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自己組織化は街づくりにも通じるキーワード

森さん(司会)「自己組織化という言葉が出てきました。これについて、少し詳しく、分かりやすくお話いただけますか?」

藤田さん「分子は原子と原子が結合して出来ている。その結合の組み替えをわれわれは化学反応と呼んでいて、化学反応でものを作るというのが、化学の大前提の考え方だったんです。自己組織化という現象は、そんな結合の組み替えが起こらなくても、分子と分子が集まって集団化して、機能化していくということで、新しい考え方のものづくりであると同時に、かつての化学の教えの中に入ってこなかったんですね。

 自己組織化によるものづくり、これはまさに化学の世界で、ミクロな世界での街づくりに相当するような研究ですね。ずいぶん早い時代、正確には私が大学で助手になってすぐの頃、30年前なんですが、自分たちの実験の中からこういう現象に気が付きまして、これは化学における新しいものづくりの作りの型ではないかなと、そんなことを感じてずっと研究を行ってきました。

 30年もやっているうちに、この自己組織化の研究がいろいろな方向に広がりました。その中で、この柏の葉に結び付く文脈を少しお話しさせていただきたいのですが、いろいろな応用研究が見えてきまして、自己組織化で作った小さな穴の空いた細孔性の化学物質というものを使って、『結晶スポンジ法』とわれわれが呼んでいる、産業界でも広く使われ始めた新しい分析技術というものを開発することができました」

自己組織化の現象を利用して作る結晶スポンジには、ミクロの穴が空いています。これがいろいろな化合物を吸い込みます。化合物を含んだ結晶スポンジをX線構造解析という分析技術にかけると、化合物の分子構造が見えるようになります

藤田さん「実はこれは、すごいことなんです。X線構造解析というのは、分子の構造を知る最も優れた手法でありながら、その物質の結晶を作らないと、観測に至らない。スタート台に立てない。その試料の測定の難しさは、『結晶構造解析の100年問題』とさえも呼ばれておりました。私共の結晶スポンジ法というのは、この100年問題を解決したということでございます。この技術に注目してくれて、たくさんの産業界の人たちもわれわれと一緒に共同作業をすることになりました。その企業の人たちと新産業創出を目指して、イノベーションを目指して、柏の葉の地でやろうと今、考えているわけです」

森さん(司会)「化学の常識にとらわれずに新しい視点で考えられたことが今につながっているということですね。出口さん、街づくり、都市工学とサイエンスということで、全然分野が違うような気がしますが、お話を聞いていかがでしたか?」

出口さん「スケールも全然違う分野ですが、都市にもそのまま応用できる考え方とキーワードをお持ちだなと思いました。都市も住宅があったり、商業施設があったり、オフィスがあったり、工場があったりということで、いろいろな異なる施設や空間で構成されているわけです。それをどういうふうにして安定した状態にしていくか、秩序化していくかというのが都市計画、都市設計の一番基本的な考え方、目的です。

 都市が大きくなっていくときに、無秩序に大きくなっていく。その問題に対して、どう対応していくかということで都市工学ができて、都市設計ができた。その中で今、考えてみると、まさにそれは言葉をちょっと変えると、都市がいかにして自己組織化してくか、やっぱりその原理を探していく研究だったのかなと思いました。

 基本的な考え方は、ゾーニングと言っていますが、住宅は住宅地に、商業・業務は商業地域に、工場は工業地域にということで、平面的に分けて、それによって同じ分子を集めて、安定した状態を空間的に仕切られた中につくっていく、というのが近代都市計画の基本的な考え方だったんです。ところがそれだけでは、実は少し長い目で見ると安定しないのではないかと。ですから、もうちょっと異なる分子を混ぜなければいけないのではないか、それが最近のトピックです。それによっていかにして安定した状態をつくり出していくのかということが、まさに今、われわれが考えなければいけない、都市計画のテーマになっていると思います」

藤田さん「サイエンスの世界でも同じようなことが起こっているような気がします。歴史をたどってみると、最初は混沌とした自然の現象を理解しようということで、いろいろな分類が起こっていくわけですね。大雑把には物理とか、化学とか、生物とか、それぞれの分野がどんどんゾーニングというか細分化されてきて、あるところまでは分業して、それで独立に発展させた方が、圧倒的に効率がいい時期がある。でもどこかで行き詰まるというか、それ以上の発展ができなくなる。そのときに元の混沌とした状態に戻してしまっては意味がないのですが、概念的なゾーニングのようなことはきちんと保ちつつ、その上でお互いにネットワークをつくるような仕組みを、学問の世界でもつくる。これは、街づくりでも、学問でも、あるいは企業でも、あるいは産業界でも同じようなことが今、要求されているんじゃないかなという気がします」