技術立国のものづくり企業たれ!柏の葉の産学に伝えたい卒業企業の矜持

「しかし、僕の性分でやるからには完璧な研究設備と人材をそろえたいと考えました。のめり込む性分なんです。しかし、試算を重ねて出した初期投資と運用資金は、当社の体力には分不相応に思えていったんは諦めました。しかし、妻が『やっちゃえば。やんなさいよ』と背中を押してくれたんです。それが大きな一歩となりました」と大和田さんは言います。

 入居後、大和田さんが最初に感じた変化は「周囲の目」だったそうです。大きな施設、意欲的な技術開発に取り組む企業と肩を並べる社名。「工場の片隅で話をするのとは、来社する人の視線が違っていました」と大和田さんは話します。しかし、本当の変化はその後に起こりました。当時、CASが食品を保存する機能は、設備としては実証でき、誰もがその事実を称賛していましたが、理論的な裏付けがありませんでした。自社研究施設を持つことで、実証実験と理論の裏付けと証明が可能となりCASに関する幾つもの論文を発表できるようになったのです。CASを技術として認め、課題解決に使いたいという声が増えていきました。

「何より変化したのは自分自身です。CASが認められたと喜べたのはつかの間、来社するお客さまからは次々に高いハードルの依頼や提案が舞い込みました。それに応えるために技術を磨く、製品として形になる、その先にお客さまの利益が生まれる。ずっとそうしてきた自負はありましたが、改めて自分はものづくりの人間だ。そう再認識し、たぶん成長もしたと思います」と大和田さん。

既存の急速凍結庫内にCASエンジンの機械を取り付け、微弱電流を流すことで、農産物・魚介類・肉類・料理等の素材に含まれる水の分子を過冷却状態に保ちます。従来の急速冷凍では、食品表面にできた氷が成長する過程で食材の細胞を破壊していました。CASは細胞組織内の分子を振動させることで細胞壁や細胞膜を保護します。食材の鮮度を損なわない保存技術は、医療分野での応用へと広がっています