カイコ創薬で新薬発見に成功!これまでにない薬や食品の開発を目指して

 現在(2020年9月)、「ASP2397」は国内製薬メーカーからアメリカのバイオベンチャーに導出され、発売に向けて準備が進められています。「ライソシンE」は東京大学とゲノム創薬研究所が共同開発したもので、バンコマイシン(従来の抗生物質)が効かなくなった黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して、迅速かつ強力な殺菌作用を示すことが確認されています。「ライソシンE」が実用化されれば、新しい効果をもつ抗生物質としては1996年以来の発売。日本発新薬の快挙になると予想されます。

「ゲノム製薬研究所の役割の一つは、『ライソシンE』や『ASP2397』のような“アカデミアシーズ”を発見することです。カイコによるスクリーニングと動物実験で、シーズの有効性を確認したら、他の研究機関や製薬会社に導出するのが基本的なビジネスモデルです。私たちはこのプロセスをカイコ創薬と呼んでいます」

カイコの長さで免疫への効果を測る

 カイコの体に免疫賦活化作用をもつ物質を注射すると、筋肉が収縮して体長がぐっと縮まります。免疫賦活化作用が強いほど、カイコは短くなります。このユニークな特性を活用し、免疫の働きを向上させると言われる緑茶やキノコ、ブロッコリーなどを比べてみると、乳酸菌には強い作用があると分かりました。さらに多数の乳酸菌をスクリーニングしたところ、キウイフルーツから採取した「乳酸菌11/19-B1株」に特に強力な免疫賦活化作用があることを発見しました。

乳酸菌11/19-B1株を配合したヨーグルトは、東北協同乳業などから発売されている

「関水名誉教授は、自分が発見した乳酸菌を復興支援に役立てたいと、東日本大震災の被災地、福島県にある東北協同乳業に電話したのです。当時、原発事故の風評被害に悩んでいた同社の協力を得て、ともに試行錯誤しながらヨーグルトの商品化にこぎ着けました」

カイコがヒトと同じ病気にかかる

 多くのマウス実験では、体内や体表に微生物が存在しない「無菌マウス」が使われますが、カイコも無菌環境で孵化させ、無菌の人工飼料を使って飼育することで「無菌カイコ」を簡単に作れます。

 カイコにヒトと同じ病気を発症させて「疾患モデルカイコ」を作ることも可能です。例えば、グルコース(ブドウ糖)を入れたエサを食べさせると、カイコの血糖値は急上昇。これは、ヒトが食事をした後の状態と同じです。この「糖尿病モデルカイコ」にインスリン(ヒトの膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる働きがある)やメトホルミン(ヒトの糖尿病薬)を投与すると、カイコの血糖値は下がります。この機能を活用すれば、血糖値を下げる作用のある物質を探索できます。

 ほかにも、黄色ブドウ球菌や緑膿菌などの細菌や、真菌(いわゆるカビ)にカイコを感染させることも可能です。

「『ライソシンE』や『ASP2397』の開発には、感染症モデルカイコを使いました。カイコはほかにもさまざまな疾患を再現できるので、創薬だけでなく、食品や化粧品の開発に幅広く対応できます」

文字と写真のスクリーンショット

自動的に生成された説明

ゲノム創薬研究所によるカイコ創薬事業の状況(2020年9月現在)