10年先の医療のために。遺伝子解析の精度と手法を磨き上げる学術ネットワークのハブ的研究拠点

●シングルセル解析技術
 これまでの遺伝子解析し、細胞の塊のデータ分析をしていたのに対し、その中の「約1万個の細胞」を1個ずつ解析することで、どの遺伝子変異が疾患の要因かを見極める。前述の国立がん研究センター東病院や産業技術総合研究所とのがんゲノム研究構想はこれに当たります。

●ナノポアシークエンサー
 ナノポアシークエンサーとは携帯可能な遺伝子解析装置で、従来の大規模データを扱う遺伝子解析に比べると精度は低いが、どこでも検査でき、すぐに結果が分かります。医療設備が乏しい土地でもエボラ出血熱のウイルスを見つけることを可能にし、世界的に需要が高まっています。

●環境の遺伝子検査
 ナノポアシークエンサーのような精度の低い検査キットを使い、水質や土壌、配水など、環境に含まれる遺伝子から安全性を見極めたり、安全性を高めたりすることへの活用が期待されている手法です。

「いずれの分野でも、遺伝子解析におけるパラダイムシフト(劇的な変化)を実感します。ナノポアシークエンサーを用いた遺伝子解析は、当研究室を含め、最新の遺伝子解析機器を持つ限られた研究機関しか参加できないレースです。これには日本の医療の特徴が有利に働くかもしれません。既に遺伝子検査を用いた最適化医療が標準化していることで、遺伝子データと診療情報がしっかりひも付いているからです。大規模データだからといって、何でもAIに任せるのではなく、ある程度の疾患との関連を整理することで、パラダイムシフトに適した新たな技術開発の可能性を模索しています」と鈴木教授は言います。

 鈴木研究室の強みの1つは、遺伝子機器の性能に加え、検査試薬の工夫により従来手法では検出できなかった微量の遺伝子を見つけ、がん化のメカニズムを解明していく研究手法だそうです。こうした新たな手法を発想することにも、柏の葉という「街」の中で研究する環境が刺激になっているようです。

遺伝子で「街を診る」という未来の医療

「私はキャンパスから車で10分ほどの所に住んでいます。子どももここで育ち、成人しました。この街の住人として自分たちの研究が、未来の社会にどう役立つのかと考えることがあります。そうした思考も、柏の葉ならではの『効果』だと思います」と鈴木教授。

 前述の「環境の遺伝子検査」は、今、遺伝子検査の話題の中でも最もホットなものだそうです。途上国であれ都市生活であれ、遺伝子変異の複合要因には環境とのイントラクション(相互作用)が考えられます。その複雑な関係を「環境に含まれる遺伝子を解析」することで『見える化』する。例えば、食物や飲料、人の排泄物を含む排水、時間や季節、場所、あらゆる生活と関わる環境に含まれる遺伝子を解析することで、クオリティ オブ ライフ(QOL)の向上が期待できるのではないかという新たな遺伝子解析の応用イメージです。

 鈴木研究室では、新たな知の原野を開拓しながら、10年先の医療、未来の人々の生活に寄与する研究を続けています。

鈴木研究室がある柏キャンパス内の「柏Ⅱキャンパス産学官民連携棟」。柏地区におけるイノベーション拠点として、オープンラボ、生産技術研究所価値創造デザイン推進基盤、インキュベーション施設が入居して活動します。オープンラボでは、企業や自治体等と連携して、新規産業創出を目指し共同研究等を行います

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