スマートシティには改善の余地がある。だからこそスマートシティであって、より賢い市民がそこで生まれる

楽しみを共有できる仕組みが参加につながる

 タンさんは、持続可能な街の開発をするためには、地域の住民が課題を設定することが一番重要だと考えています。そして、住民がコミュニティー改善のプロセスに積極的に関わるためには「楽しさを共有」する仕組みが必要だと指摘します。

 タンさんがその仕組みの例として挙げてくれたのが、「奉茶(お茶をどうぞ)」というアプリです。このアプリの目的は給水所で水をくみ、ペットボトルの使用量を削減し、環境負荷を下げることです。ただし、このアプリでは、給水という行為を一種のゲームのようにしたことで、ユーザーの自発的行動を促す仕組みが組み込まれています。継続的に50日間水飲み場にチェックインすると、コインがもらえます。このコインをためると、地元の特別な飲み物を買えるそうです。

「このアプリは時間軸があるお祭りのような仕掛けを組み込むことで、多くの人の参加を促しています。楽しみは共有されるべきであって、これが重要です。参加者がぜひやってみたいと思い、他の人にも声を掛けます。そうすると参加者のコミュニティーが広がり、アイデアも広がります」

奉茶(お茶をどうぞ)はゲーム感覚でペットボトルの消費を削減できるアプリです。タンさんは住民の参加を促すにはこのアプリにように楽しみを共有できる仕組みが必要だと指摘します。出典:Google play のアプリ紹介画面

 もし日本のIT担当大臣に就任したら、何をしますかという質問に、タンさんは次のように答えてくれました。

「公共の仕事が意味するもの、つまりその定義を書きます。人と人というのがデザインであって、ITというのはmachine to machineです。IoTというときには、インターネットを生き物と考えればいいと思います。バーチャルリアリティーといえば、シェアリアリティー、つまり現実を共有するということです。機械学習といえば、みんなで集まって学ぶと考えてください。そしてユーザーエクスペリエンスといえば、人間の経験ということです。(技術的特異点を意味する)シンギュラリティーという言葉を聞いたら、プリューラリティー、つまり複数のものがあるということです。ですから、私はエンパワメントという言葉を最初に日本語に訳すと思います」

 最後にタンさんは、カナダ出身のシンガー・ソングライター、レナード・コーエンが書いた「聖歌」という曲の中にある、「全てのものにはひび割れがある。光はそこから差し込むものだから」という一節を引用して、オープニングトークを締めくくってくれました。

「スマートシティに全く欠陥が無く、ひび割れがないということであれば、市民が参加する余地も無いということなります。スマートシティにはいろんな改善の余地があるということです。だからこそスマートシティであって、より賢い市民がそこで生まれます。より賢い市民になることを、私たちはスマートシティの中で目指し、期待しています。どうぞ皆さん大きな繁栄を楽しんでください」

1 2 3 4

前へ