MAGAZINE
今の延長線上にはない「持続可能な世界」の作り方
問いを立てる→矢印を置く→未来が変わる
テクノロジーの世界から「問い」をデザインするアーティストへ
続いてスプツニ子!さん。そのユニークな経歴について自己紹介をしました。
スプツニ子!さん「両親はともに数学者。その影響で私は子供の頃から数学が大好きで、高校3年生をやらずにイギリスに留学し、ロンドン大学のインペリアル・カレッジで数学とコンピューターサイエンスを専攻しました。でも学ぶうちに、ふと疑問を持ったんです。テクノロジーはこんなにも世界を変えているのに、学問領域は白人中心、男性中心。こんなに視野の狭いコミュニティの中だけでテクノロジーの未来が語られるのはおかしいのでは、と。そんな気持ちを音楽にして、ロンドンの寂れたクラブで歌っているうちにファンがついて、楽しくなっちゃって」
スプツニ子!さん「それでアートが学べるロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)という大学院に進学しました。25歳の時に卒業制作として発表した『生理マシーン』がインターネット上で話題になり、ニューヨークのMoMAや東京都現代美術館から展示のオファーが来まして、それからアーティストとして活動し、MITや東大、東京都現代美術館などで仕事をしています」
コロナ禍が浮き彫りにした格差社会の有様
スプツニ子!さんの専門分野は「スペキュラティブデザイン」。RCAの教授であるアンソニー・ダンとフィオナ・レイビーが提唱した考え方です。
スプツニ子!さん「デザインによって未来の可能性を提示し、問題提起し、それについて多くの人と議論をして未来に対する知見を深めていく。これがスペキュラティブデザインです。私がこの分野について学んでいた2008〜09年頃は、変わったことをやっていると思われていましたが、コロナを経験した今、スペキュラティブデザインが提示した未来は、すごくリアリティのあるものになってきたという感慨があります」
宮田さん「かつて経済合理性至上主義という側面が強かった世界は、コロナ禍によって経済が停止したことで、退路のない変化の時代に入りました。その中でスペキュラティブに問いを立てることは、これまで置き去りにされてきた格差や差別の問題に向き合う上で、非常に有効なアプローチですね。例えば、アメリカでいえば、建国時から抱えてきた人種問題。かたや日本にも男女格差という大きな問題があります。しかし、日本ではそれを格差だと認識していない人が驚くほどたくさんいます。この問題を前向きに考えるために、どのような問いを立てればいいでしょうか」
スプツニ子!さん「2017年の#Me Tooムーブメントをきっかけに、ソーシャルメディアを通じて女性が気付きを共有し、声を上げるようになりました。また、大学で教えていると、20代の男性はジェンダーニュートラルをポジティブに捉えて、男性らしさ、女性らしさにとらわれなくなってきています。しかし、いかんせん、日本の政治やビジネスの中枢にいるのはほとんどが男性。その人たちの評価基準や物差しを変える問いが必要ですね」
宮田さん「あらゆる差別、格差を解消するために欠かせないのが、多様性を受容することです。そして、それを可能にするのがデータの力だと私は考えています。AIやデータを活用すれば、コストをかけずに多様な一人一人に寄り添い、それぞれの希望や必要な支援をいち早く認識できるわけですから。その象徴的な例がApple Music。好みを2カ月くらいこまめに入力していると、ある日突然、自分好みの音楽をリコメンドしてくれる。データの力が個人のために発揮される実例です」