ゲノム医療を地域医療として実践したい。その想いは柏の葉だから実現できた

株式会社ゲノムクリニック

東京大学で分子生物学を学び、千葉大学で医学を学んだ曽根原弘樹さんが、柏の葉の街でゲノム医療のクリニックを開業したのは「必然」でした。2017年、三井不動産が共催する「アジア・アントレプレナーシップ・アワード」(以下、AEA)で「柏の葉賞」を受賞した曽根原さんの「ゲノム医療をこの街の地域医療に」という想いは、遠い未来ではなく翌年に実現。今では街の住民が「駅前で受診できる医療」となっています。人々の暮らしの中で研究し、磨き上げた技術や手法を社会に役立てる。そのスタートダッシュを支えたのは、起業をサポートする柏の葉の街の取り組みと、産学と社会が一体化した街の環境でした。曽根原さんの歩みを振り返りながら「この街だからできること」を見ていきます。

東葛テクノプラザにあるゲノムクリニックの解析ラボでは、次世代シーケンサー(写真)やPCR装置による遺伝子解析を行っています

将来の疾患に「防災」のように
備えるための遺伝子解析

 ゲノムクリニックには、拠点となる2つの「ラボ」があります。1つは柏の葉駅前のコワーキングスペース「31VENTURES KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」に開設された「ゲノムクリニックラボ」。名称通り「ゲノム医療」に特化した診療所です。もう1つは「東葛テクノプラザ」内にある「ゲノムセンター」で、検体の遺伝子解析やPCR検査をする施設です。ゲノムセンターで得られたデータをゲノムクリニックラボで分析し、がんの遺伝子リスク判定などを行っています。対象としているのは、卵巣がん、乳がん、前立腺がんです。「ゲノム」と言えば、人間の遺伝子を全て読み取ったものですが、なぜ特定のがんに絞った診療を行っているのでしょうか? そんな素朴な疑問にも同クリニックの医師・曽根原弘樹さんは丁寧に答えてくれます。その姿勢が地域の人々に信頼を広げているようです。

「全ての病気の原因には、遺伝性の要因と生活習慣等の環境要因とが複合的に関わっています。しかし、がんの中には遺伝性の強いものがあり、解析した遺伝子の文字配列を読むことで、『がんになりやすい』遺伝子を見つけ、将来のがんの発症に備える診断ができるのです」と曽根原さん。

 日本人の死因の第1位はがんですが、これは医療の発達により他の病気で死亡する確率が減り、長寿になったことで細胞分裂の結果としてのがんに巡り合う可能性が増えたためとも言えます。しかし、長く生きれば誰もが経験するかもしれないがんと、遺伝的要因で他の人より可能性が高いがんでは「備え方」が違ってきます。大型台風が近づく予報に接しても、自宅の危険度をどう予測すればいいかは悩みますが、ハザードマップなどで具体的に「危険」の度合いが示されれば事前の防災対策が可能です。曽根原さんは「知ることで救える命があります。それを可能にするのがゲノム医療です」と言います。

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