必要な機能に絞った手術支援ロボットで医師と病院の負担を軽減

 腹腔鏡手術には、右手に電気メス、左手に鉗子を持って患部を切り離していく「術者」の他に、術者の見たいところに的確に腹腔鏡を向けて視野を確保する「スコーピスト」、麻酔医、鉗子を使って臓器を牽引して術野を広げる「助手」、必要な機器を術者に手渡す看護師など、最低でも5人が関わることになります。

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腹腔鏡手術には多くのスタッフが関わる必要があります

 手術を円滑に進めるためには、これら5人のスタッフのチームワークが求められます。特にスコーピストと術者の間のコミュニケーションが重要です。術者の思い通りの視野を確保することは、手術の成否を分けます。また、患部を切除するときに適切に臓器を引っ張っておかないと、うまく切れないため、鉗子で臓器を牽引する助手も大きな役割を果たしています。スコーピストや助手の役割を担当する若手医師は、術者が作業しやすいように無理な姿勢でじっとすることを強いられることも多く、体への負担が大きいことも課題です。

ピンポイントでメリットを生かせるロボット

 これらの課題を解決する方法の1つが、手術支援ロボットの導入です。現在、世界で稼働している腹腔鏡手術支援ロボットの多くは、1990年代に米国で開発され、1999年にIntuitive Surgical社が臨床用機器として販売を開始した「da Vinci Surgical System(以下ダビンチと表記)」です。ダビンチは世界で累計約5500の病院に導入され、日本でも累計300以上の病院で購入されているようです。

 ダビンチは術者が操作コンソールの3Dモニターを見ながら遠隔操作で手の動きをロボットに忠実に伝え、手術器具が連動して手術を行います。ハサミや鉗子を取り付けるアームは多数の関節を備えていて、人の手以上に自由に動かせます。手術には緻密な動作が必要なため、術者の手の動きは実際よりも小さな動作に変換され、手ブレを補正する機能も備えています。

 このように、ダビンチは外科医が「これがあったらいいな」と考える機能を現時点で最大限盛り込んだ、ハイエンドの手術支援ロボットと言えます。そのため、価格も付属品を含めると約3億円と非常に高価です。また、システムの重量が1トンくらいあるため、場合によっては手術室の床を補強する必要があります。そうすると、さらに導入費用はかさみます。

 A-Tractionが手掛けている腹腔鏡手術支援ロボット開発は、「本当にフルスペックの手術支援ロボットが必要だろうか、という疑問がきっかけだった」と、安藤社長は振り返ります。また、腹腔鏡手術の権威として著名な国立がん研究センター東病院大腸外科長の伊藤雅昭医師の「ピンポイントでロボットのメリットを生かせる、より安価な手術支援ロボットが欲しい」という言葉にも背中を押されました。

 そこで考案したのが、従来の腹腔鏡手術と同じように、患者の横に術者が立ち、術者の対面にロボットを置いて、内視鏡と鉗子を術者が操作するという基本コンセプトでした。こうすることで、医師は一人で内視鏡と鉗子の両方を操作できるようになり、自分の思い通りに手術を進めることができます。また、必要な機能に限定することで価格を1台3000万円から5000万円までに抑え、重量も400キロ以内に収めたため、床を補強する必要もありません。

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A-Tractionが開発している手術支援ロボットは、医師が必要とする機能に絞り込んでロボットのメリットを生かし、価格も抑えています