必要な機能に絞った手術支援ロボットで医師と病院の負担を軽減

人と共存し、直感的に使える

 安藤さんたちが考えた基本コンセプトを実現するためには、いくつか課題がありました。まず、「ロボットを術者の前に置いて手術をするので、いかに人と共存できるか」ということです。そして、術者が内視鏡と鉗子の両方を直接一人で操作するので、「いかに直感的にその操作を行えるか」ということです。

 ロボットと術者の共存という点では、術者側へのロボットアームの侵入を最小限に抑えながら、広い動作範囲を確保できるアーム構造を設計しました。そして、直感的に操作するという点では、足元のペダルを踏んでいるときだけ術者が右手に持っている術具に追従してロボットの術具が動き、フットペダルを2タップするとロボットの術具の先端のみ追従して動くインターフェースを開発しました。

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ロボットと術者の共存を図るために、術者側へのロボットアームの侵入を最小限に抑えながら、広い動作範囲を確保できるアーム構造を設計しました

 このロボットを導入することで術者である医師が得られるメリットは、内視鏡と鉗子の両方を自分で操作するため、自分が望む視野が得られ、臓器を適切な強度で引っ張り、患部を切除できることです。また、従来のようにスコーピストや助手に指示を与える必要がないので、手術中のストレスを軽減できます。

 患者にとってのメリットは、ダビンチとは違って術者が横に立って手術を行うことで安心感が得られることです。さらに、緊急の場合、術者が患者のそばにいるので開腹手術への移行がスムーズに行えることも、もう1つの安心材料です。

 病院にとってのメリットは、財政的な負担を軽減できることです。初期導入コストがダビンチに比べて大幅に安く済むことに加えて、術者が腹腔鏡と鉗子の操作も一人で行うので、スコーピストと助手の2人の医師が不要になります。現在、日本の病院は約4割が赤字経営と言われ、地方の病院では統廃合も進んでいるほか、医師の数を確保することも難しくなっています。腹腔鏡手術に必要な医師の数をこのロボットで減らすことができれば、その分、手術数を増やし、経営改善につながることも期待できます。

東葛テクノプラザ内のオフィスでは、ロボットの開発と組み立てを行っています

国立がん研究センター東病院と二人三脚で開発

 A-Tractionの手術支援ロボットは、同社の取締役でもある国立がん研究センター東病院の伊藤医師との緊密な関係のもとに開発されています。そもそも、A-Tractionという会社は、技術系のベンチャーにありがちな、「こういう技術があるから何とか事業化したい」ではなく、安藤さんと、宮本寛之さんという2人のエンジニアと、伊藤医師の話し合いから生まれ、ニーズありきでロボットの開発が始まりました。