「人間拡張技術」で、新たなサービス産業の拠点を作る

 AIの要素技術である「ディープラーニング」では、大量のデータの中からコンピューターが人の手を借りずに自動的にパターンを認識し、データの特徴を発見します。その技術を用いて、幅広い分野でイノベーションが進むことが期待されています。しかし、大量のデータを扱うには、超高速で演算を行うことができるコンピューターが必要です。

 ABCIは現在、世界最速のスーパーコンピューターである理化学研究所 計算科学センターの「富岳」に次いで、日本で2番目の計算速度を誇っています。人工知能研究センター総括研究主幹(兼)人工知能クラウド研究チーム長の小川宏高さんは、ABCIの特長を次のように説明してくれます。

「ABCIは非常に計算能力が高いので、たくさんの人にサービスを提供できるとともに、大量の計算リソースが必要な問題を解決するときに役立ちます」

 産総研では年に3回、時期を決めて、ABCIが搭載している4352基のGPUを最大24時間、特定の研究グループが占有利用できる公募型プログラム「ABCIグランドチャレンジ(以下グランドチャレンジと表記)」を実施しています。2018年10月に実施したグランドチャレンジでは、ソニーの研究グループが、一般画像認識のベンチマークに用いられている、インターネットから収集した画像データセットである『ImageNet』を利用した学習を、約3.7分で完了。それまでの最速記録6.6分を大幅に短縮し、世界一を達成しました。

 新型コロナウイルス対策にもABCIは活用されています。HPCI(革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)システムの構成機関の一員として、産総研は「新型コロナウイルス感染症対応HPCI臨時課題募集」にABCIを無償提供しています。

 小川さんは、その内容について分かりやすく解説してくれます。

「新型コロナ対策として、治療、防疫、創薬、感染拡大に関わる分析や予測など、広範な研究課題の実施を支援しています。実際、ABCIは新型コロナウイルスの治療薬の候補となる既承認薬の発見、迅速な診断システムの実現、人間の相互作用により生じるさまざまな状況を分析するマルチエージェントシミュレーションを用いた、ウイルス伝播予測などに利用されています」

人工知能研究センター総括研究主幹(兼)人工知能クラウド研究チーム長の小川宏高さん。柏センターに整備・運用されている「AI橋渡しクラウド(ABCI)」は、世界最速のスーパーコンピューター「富岳」に次いで、日本で2番目の計算速度を誇ります。AI研究のプラットフォームとして、特定の研究者だけではなく、一般企業や学生にも公開しています