洗練されたタンパク質合成技術で創薬をサポート リード開発のプラットフォームを目指す

 また、バイオ医薬品は有効性が高いのも特徴です。例えば、バイオ医薬品の中に『抗体医薬品』と呼ばれるものがあります。抗体とはヒトの体内で作られ、ウイルスや細菌やがんなどの敵に結合して排除する働きをもつタンパク質です。この抗体を人工的に作って医薬品にしたものが抗体医薬品です。これは敵に対して非常に的確に反応するため、有効性が高い。主にこの2つの理由から、数多くのバイオ医薬品が開発され、利用されているのです」

ジーンフロンティア株式会社 取締役COO海老原隆さん

膨大なライブラリから“薬の種”を見つける

 バイオ医薬品は安全性が高いとはいえ、新薬のアイデアが出てから開発に進み、市場に出るまでには年単位の時間がかかります。

 例えば、がんに有効な抗体医薬品を作ろうとしたとき、がんの原因タンパク質を発見し、それが本当にがんの原因なのか、どうしたら悪性度が上がるのかなど、基本的な情報を集めるのが「基礎研究」。主に大学の研究室などで行われます。

 次のステップが、新薬の候補となる物質「リード化合物」の開発です。このプロセスを「リード開発」と言います。リード化合物は最初から1つに絞るのではなく、複数の候補から最も有効なものに絞り込む作業が必要です。リード化合物が選定されたら、ヒトでの臨床試験の前に、試験管内の試験、動物実験などの「非臨床試験」に進みます。

 ジーンフロンティアはこの創薬プロセスの中で、基礎研究からリード開発までを主戦場としています。そこで活躍するのが、同社が開発した再構成型無細胞タンパク質合成キット「PUREfrex®」。そしてそれを利用したスクリーニング技術「PUREfrex®RD」です。

農業的な手法から、洗練されたタンパク質合成技術へ

 ヒトの体内では、タンパク質は細胞内で合成されます。基礎研究やリード開発でも、タンパク質はこのプロセスを模して作られています。具体的には、大腸菌や動物細胞などの「培養細胞」にタンパク質の設計図となるDNAを注入して強制的にタンパク質を作らせ、そこから抽出するという方法です。これは、いわば農業的な方法。培養細胞に本来作れるはずのないタンパク質を作らせるため、生産効率が低かったり、毒性のあるタンパク質は作りにくかったりするなどの無理が生じがちです。

「このプロセスについて、東京大学大学院の上田卓也教授(現・早稲田大学大学院教授)は『細胞内のタンパク質合成は分子レベルで見たら化学反応。それなら試験管に必要な材料のみを入れて人工的にタンパク質を合成できないか』と考え、その技術を開発しました。それが、2001年に『Nature Biotechnology』に掲載されたピュアシステムです。私たちは2008年から上田教授と共同研究をし、ピュアシステムのコンセプトに磨きをかけて『PUREfrex®』を完成させました」と海老原さんは話します。

細胞の合成に必要なリボソーム、アミノ酸などの材料をそれぞれ別個に調製したものが「PUREfrex®」。「PUREfrex®」を、作りたいタンパク質をコードするDNA(直鎖状のものと環状のものがある)とともに試験管に入れ、しばらく保温すると反応が進み、目的のタンパク質が合成される

現在では、研究目的に応じて、特徴の異なる2種類のタンパク質合成反応液「PUREfrex®1.0」と「PUREfrex®2.0」が販売されている。さらに、「PUREfrex®2.0」の反応液組成を維持したまま、タンパク質の合成条件をより詳細に検討できる「PUREfrex®2.1」も誕生