生体膜を模倣するポリマーで、医療・ライフサイエンス分野に革新をもたらす

 インテリジェント・サーフェス代表取締役CEO兼 CTOの切通義弘さんは、生体模倣技術を用いたMPCポリマーが持つ、医療機器分野での可能性の一つについて、こう語ります。

 現状では細い人工血管がないため、必要な場合は患者の足や手の血管を採取して、手術に用いるケースがあります。細い人工血管が実用化されれば、患者の負担を軽減することができます。

 既に、人工血管内部にMPCポリマーをコーティングしてウサギに埋植した実験では、8カ月後も血栓の生成が見られなかった、という結果が得られているそうです。

インテリジェント・サーフェスが開発している「MPCポリマー」は、人間の生体膜の構造を模倣しているため、生体反応が起きにくい医療機器の開発が可能になります

医療分野での展開に期待

「アクリルというプラスチック材料がありますが、40年前、その構造と同じような構造を分子内に持たせた、MPCポリマーの原料となるMPCモノマーというものが開発されました。MPCモノマーを他のアクリルの原料と混ぜて光を当てたり、熱をかけたりするとリン脂質が100個とか1000個とか連なった長い分子構造になります。これを基材表面にコーティングすると、生体膜の上半分だけを基材表面にコーティングしたような形になります。これがコア技術です」と、切通さんは説明します。

 20年以上前に、この技術を使って東京大学と日油社がMPCポリマーを大量に合成することに成功。これは保湿性が高いというMPCポリマーの長所を生かして、コンタクトレンズの保存液や化粧品の添加剤に使われているそうです。

 ウサギに埋植された人工血管の内部に使われたのは、この技術の延長線上にあるものですが、切通さんによると、表面にコーティングした後に強い力がかかると剥がれやすいという課題があるそうです。

「人工血管であれば内側に働く力は流れる血液の圧力程度なので問題なく使えますが、人工関節や手術のときに使う道具など、摩擦が強く生じるようなものでは、コーティングが剥がれてしまいます」

 切通さんが開発した新しい構造のMPCポリマーは、ガラスやチタン、ステンレスなどの材料表面に、化学結合という形で元素同士をくっ付けることも可能です。こういう形にすると、強い力をかけてもコーティングが剥がれることがないので、繰り返し使用でき、医療機器承認に必要な安全性試験にも問題なく対応できると言います。