生体膜を模倣するポリマーで、医療・ライフサイエンス分野に革新をもたらす

ライフサイエンスなど、他分野での可能性も

 切通さんは、ライフサイエンス分野でのビジネスの可能性にも注目しています。医療機器の開発では薬事承認が必要ですが、ライフサイエンス分野で使われる検査機器はその必要がなく、開発コストを大幅に下げることができ、市場規模自体も大きいからです。

 切通さんは具体的な例を挙げて説明してくれました。「例えば、血液検査のために使うバイオチップというものがあります。血液1滴でいろいろな病気の診断や、健康のチェックができます。1ミリの100分の1程度の幅を持つ通路に血液を流して分析をしますが、通路内で血液が固まってしまったり、検出したいタンパク質がくっ付いてしまったりということがあります。この通路にMPCポリマーをあらかじめ塗布しておけば、そういう不具合がなくなります」

 さらに、MPCポリマーは生体親和性、タンパク質非吸着性、血液適合性といった今まで説明してきた性質のほかに、超親水性、曇り防止、付着した汚れを雨水などで自動的に洗い流すセルフクリーニングなどの機能を機器表面に与えることができます。

 そのため、キッチンやバス・トイレなどの汚れ防止、船舶への海洋生物の付着防止、レンズ・ランプの曇り防止など、工業用途に展開することもできます。

 ただし、工業用用途は今のところコスト面の制約が大きいため、当面は医療やライフサイエンスの分野に注力した事業展開を、切通さんは考えています。

MPCポリマーは、工業用用途や、細胞培養の効率化や培養環境の最適化などの用途にも使えます

 医療分野に応用できる新素材の開発を当面の目標としているインテリジェント・サーフェスにとって、柏の葉は事業展開上いろいろなメリットがあるようです。まず、同社が所在する東大柏ベンチャープラザは、製品の開発に不可欠な、有機溶剤を扱える「ウエットラボ」を設置することができます。さらに、内視鏡の汚れを防止する材料の開発を一緒に行っている国立がん研究センター東病院との共同研究は、東大柏ベンチャープラザの紹介がきっかけでした。

 また、千葉県産業振興センターが、企業や大学・研究機関、医療機関が参加する「ちばメディカルネットワーク」を設置し、医工・産学連携による製品化や事業化を進めていることも役立つと言います。

インテリジェント・サーフェスのように高分子系の素材を扱うところや、ライフサイエンス系の企業では、有機溶剤や細胞を扱える「ウエットラボ」がないと、活動できないと切通さんは訴えます

 切通さんが、柏の葉に望むことは、より一層の都会的な機能の充実です。また、研究環境にもこれまで以上に配慮があるとうれしいと、言葉を続けます。

 今後の事業展開については、まず医療分野で内視鏡の汚れを防止する製品を実用化することが第一の目標です。さらに、小さいパーツなどに限られますが、医療機器を自社でコーティングして医療機器メーカーに卸すことも考えています。

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