幸福度を指標とし、「健康に暮らせる都市」の条件を見える化する

幸せは波及する。幸福度を指標にすれば、より幸せなコミュニティづくりが可能になる

 矢野さんの研究手法と分析を聞き、近藤さんは「やっぱり!」と合点がいくことが幾つもあると感じたそうです。

近藤さん「私たちは約25万人を分析してきましたが、その中で見えてきたことと重なることが多い。一例を挙げれば、スポーツに参加している人が多い街は、幸せな人が多い。それをさらに分析すると、本人がスポーツ活動に参加していなくても、周囲に参加している人が多い街では、うつ病になる確率や認知症のリスクが減るという結果が出ました。幸せは周囲に波及するという分析結果は、他にもさまざまな例が出ているのですが、矢野さんの研究でそれが証明されました」

 矢野さんの幸せな組織づくりの視点と、近藤さんの幸せな街づくりの視点が、データ分析の研究結果として一致しました。この「幸福度」という指標は、今後どのように役立っていくのでしょうか?

矢野さん「従来、公共のサービスや何かの計画決定は、ある種の機能や性能、指数といったもので判断されることが多かった。それは測ることができるものがそれしかなかったからです。一方で、幸せかどうかは、時代や世代、個々人でも見方や根拠が違うため、それを議論することはできませんでした。しかし、定量的な数値として測り、客観的な指標として幸福度を活用すれば、運動競技が新記録を更新していくように、幸福度の改善も可能になります」

 近藤さんの「地域をより健康にする」取り組みも、幸福度を指標に用いることで「より幸せにする」効果や改善が明確になり、さらには「地域の価値」を判断することも可能になると矢野さんは考え、コミュニティを考える上での「大きな転換」になると予測します。

 近藤さんには、もう1点、「やっぱり!」を感じた要素がありました。人々が信頼し合い、困ったときに助け合えるコミュニティ。それを近藤さんは「居場所のある社会」だと説明します。

近藤さん「私の研究分野ではソーシャルキャピタル(社会資本)と呼びます。調査データを分析すると、参加できる社会、居場所のあるコミュニティでは、要介護状態になる確率、死亡率も低い。これは、繰り返し出てくる結果だったのですが、もう間違いないところまで近づいています」

 健康に暮らすための幸福度という指標を使い、「居場所のある社会」という具体的な議論は、実際の街づくり、組織づくりへと論を深めていきます。