幸福度を指標とし、「健康に暮らせる都市」の条件を見える化する

孤立化させないコミュニティづくりのコツ。多様な人々が参加できる仕組みをつくる

 近藤さんは、データ分析から得られた仮説の実証を試みました。3年前から千葉県松戸市の協力を得て行われている「松戸プロジェクト」です。人と人の関係性、活発な地域参加が重要と分かっても、それを人間関係が希薄な都市部で施策として実現するのは難しいのではないか。そうした声に、都市型モデルとして実現可能であることを確認するのが目的です。

近藤さん「都市部には、企業組織で働いてきた人や、さまざまなボランティア組織、NPOなどの人的資源が豊富です。こうした方々と行政が協力すれば、都市だからこそ実現可能なことができるという期待もありました」

 近藤さんの研究では、「ボランティアをする人が多い街は幸せ」という分析結果もありました。人口の多い都市部で、人々に社会参加を促すためにも多くのボランティアが必要です。しかし、課題がありました。国内の実態を見ると、ボラティアに参加する人の6~7割が女性なのです。退職後の男性はなかなか地域活動に参加しないといわれ、その改善も「幸せな街づくり」には避けて通れません。

近藤さん「しかし、私は多くの男性も地域デビューのチャンスをうかがっているのではないかと考えました。そこで、企業組織で培ったスキルを活かせるボランティア活動を呼び掛けたのです」

 現役時代に本社で現場の営業部隊を支援した経験をマネジメントや間接支援の調整などで役立ててほしい。誰もができるわけではない、磨き上げた専門のスキルを役立ててほしい。ボランティア活動の中に、役割、出番、そうした仕組みをデザインすることで、松戸プロジェクトでは、ボランティアの6割が男性となったそうです。そして3年が経過し、社会参加の伸びが他の自治体よりも大きく、高齢者の生活機能低下が少ないなど、数値で分かる効果が確認されました。こうした「さまざまな人」が参加できる仕組みづくりが幸福度をアップさせる上で大切なことだと矢野さんも指摘します。

矢野さん「幸せの本質は、いろいろな環境に関わって、工夫し、調整し、立ち向かっていくこと。社会にそうした挑戦できる居場所があるということが重要です。予測不能な変化に常に立ち向かうことが幸せにつながるのであり、決して楽で、緩い状態に幸せを感じるわけではないのです」

 矢野さんは、持続的な幸せを可能にするために必要な「心の資本」となる4つの要素を整理し「HERO within(内なるヒーロー)」と呼びます。

HOPE 自ら道を見つけるスキル
EFFICACY 自信を持って行動するスキル
RESILIENCE 困難に立ち向かうスキル
OPTIMISM 物事の明るい面を見るスキル