幸福度を指標とし、「健康に暮らせる都市」の条件を見える化する

「幸福度」を測り、見える化する。「幸せ」は、コミュニティから生まれていた

加速度計センサーを付けた人の24時間365日間の身体運動を計測したグラフ。赤い部分が活発な活動、青い部分が睡眠時間等安静時を表しています

 矢野さんは2006年に自らの左手に加速度計センサーを付け、以来、24時間の自らの身体運動のデータを取り続けています。1個のデータは些細なものですが、膨大な数を分析することで、その人物の「暮らし」が見えてくるそうです。上のグラフでは、B氏のグラフは定規で整えたように誰よりも規則正しい繰り返しに見えますが、週末に睡眠時間が多く、「寝だめ」をするほど疲れがたまっているのかもしれません。C氏のグラフからは、日々自由気ままに生活している印象を受けますが、日に3回の活発な活動は毎日同じ運動量です。これは通勤と昼食時間。勤務時間内の規則性がうかがえます。

 矢野さんは7社、10職種、468人の協力を得て、5000人日のデータを計測。同時にさまざまな「物差し」となる質問のアンケートを取り、2つのデータを分析しました。目的は組織における「幸福度」を指標化するためです。

矢野さん「私の研究は、このデータを使ってワーカーや組織を幸せにすることです。20世紀はモノが大量にあればそれでよかった。しかし21世紀は、承認・自己実現・利他などの生きがいや役に立ちたいという心の充足が重要になってきました。この20年間で心理学や行動学の研究が進み、成功が幸せを生むのではなく、幸せな人や組織の生産性や創造性が高い、つまり成功するのだということが解明されてきました。そして発達したテクノロジーがそれを支えることも可能になりました」

 どうしたら人や組織は幸せになれるのか? そもそも「幸せ」とは何か? どのような条件で生じるものなのか? これを「環境変化」と「人体に生じる生化学現象」に見ると、血圧やホルモンの値の増減、筋肉や内臓の活動、神経系のシグナルなど、全て人体内部に生じるシグナルであり、外から見ることができません。しかし、筋肉の動き、つまり人の運動は測ることができます。それが、矢野さんが自らセンサーを取り付ける生活を始めた理由です。

 身体運動とアンケートの分析により、「幸せな人たち」と「幸せでない人たち」には明確な違いがあることが分かりました。

他者とのつながりが「多い」「少ない」はあまり影響せず、その内容が「幸せ」の実感に影響していることが分かりました

矢野さん「センサーが計測した身体運動の特徴と幸福度のアンケートのデータの相関関係はR=0.94と極めて高い結果となりました。私たちは『幸せ』を個々人の感情と捉えがちですが、この研究からは人間関係と行動の実態が核にあることが分かりました」

 矢野さんは、身体運動のデータから「ハピネス関係度」を導き出しました。これを指標にすれば、周りを活性化し幸せを生む行動を持続させることが可能になり、幸せで生産的な組織づくりが可能だと言います。